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琴桜の死 [追悼]

 元横綱、琴桜の鎌谷紀雄さんの訃報に接する。享年66。
 琴桜の現役時代の姿は最晩年しか記憶にない。テレビで見た不知火型の横綱土俵入りはいかにももっちゃりしていて、若武者貴ノ花らの颯爽とした姿や人気者高見山の愛嬌のある姿と比べると、子どもの目から見てもあまり魅力を感じなんだのだ。
 そやから、私の記憶にある琴桜は、先代佐渡ヶ嶽親方としての姿である。とにかく弟子育成には定評があった。大関でがぶり寄りの琴風、ブルガリア出身の琴欧州。関脇ではF1相撲の異名をとった琴錦、後に最年長大関昇進記録を塗り替えることになる琴光喜、ミスター1分琴の若ら。平幕優勝もした琴富士、稽古熱心で知られた琴稲妻や琴椿。琴乃富士、琴若、琴立山、琴冠佑、琴春日……。適当に書き連ねるだけでこんなに出てきた。書き漏らした力士も入れたらもっと多くの関取を育てているはずや。
 名横綱が必ずしもすばらしい力士を育てられるというわけやない。双葉山の時津風親方は師匠としても多くの名力士を育てたけれど、大鵬親方も北の湖親方も大関は育てられなかった。千代の富士の九重親方は大関千代大海を育てたけれど、それ以外の力士となるとかなり寂しい。
 琴桜は横綱としては短命に終わったけれども、師匠としては相撲界に大きな貢献をしたというてええやろう。同じ短命横綱の三重ノ海の武蔵川親方がこれに続くといえるか。
 師匠の力というのは、力士にとって大きなものやと思う。双羽黒や朝青龍がもし佐渡ヶ嶽部屋に入門していたら……と想像すると、協会はこういう「名伯楽」の定年後は、協会嘱託の親方教育係に任用するなどの措置をしてもええんやないかと考えたりするんである。
 元力士の漫画家琴剣さんがその著書の中で琴桜の佐渡ヶ嶽親方について、敬愛の思いを隠すことなく描いていたのを思い出した。たとえ出世できなかった力士であっても、そうやって元師匠を慕う。それだけで琴桜がどのような師匠やったかがわかろうというものやないか。
 琴光喜の大関昇進を見届けてから、元横綱琴桜は逝った。新大関が先代の師匠に供える供養は、賜杯以外にないやろう。
 謹んで哀悼の意を表します。


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