SSブログ

クラシックの友の死 [追悼]

 彼とは、15年ほど前に知り合うた。
 「ショパン」というクラシックファンの集まるスナックが京都に開店した。私は週末になるとせっせとそこに通った。常連ができ、顔見知りとなった私たちはCDを持ち寄って聞き比べをしたり、新譜や昔の名演奏について語り合ったり、ほんまに楽しい時間を過ごした。
 彼は指揮者の振り真似を得意にしていた。レパートリーも広かった。常連がたくさん集まった日には、ムラヴィンスキー指揮レニングラードフィルの「ルスランとリュドミラ」序曲をバックに次々と名指揮者のタクトを見せてくれた。フルトヴェングラー、トスカニーニ、クナッパーツブッシュ、カラヤン、バーンスタイン、クライバー、スゥィトナー、サヴァリッシュ、小澤、ショルティ……。
 彼がニフティのフォーラムで活躍していることも知った。インターネットではホームページを作って、さまざまなCDの評をアップしていた。ハンドルネームを「ゆらむぼ」というた。
 京都での職を辞して、故郷に帰ってからは、会うことが少なくなった。それでも彼の人柄を愛する仲間たちは、彼が京都に来るといっしょに「ショパン」に行った。
 関西フィルのコンサートに行って、観客から指揮者を選んで1曲振らせてくれるという企画で、彼は指揮台に立ち、タクトを振った。あの時の彼の楽しそうな表情は忘れはしない。
 今日の夕方、自宅に訃報が届いた。死因はクモ膜下出血やった。私が帰り道、自宅に電話したら、妻が言うた。「安全な場所にいる?」。訃報に接したときの私のショックを慮ってくれたのやった。帰宅して、彼のお兄さんに電話した。そして、昔のクラシックの友たちにメールを送って知らせた。
 ほっと一息ついたとき、腹の底から厚いものがこみ上げてきた。号泣。声を押し殺して、泣いた。彼は確か私と同い年やったはずやから、享年は45か。
 昔の友たちと集まり、彼を偲んで呑もうという話も出ている。その時は、あの頃のようムラヴィンスキーのCDをかけよう。そして、脳裏に彼の指揮芸を浮かべながら、呑もう。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:blog