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桂氏と坂田氏 [演芸]

 おめでたい話。桂米朝師や坂田藤十郎丈が文化勲章を受章したそうです。以下、スポーツ報知のサイトより転載。

“政府は27日、2009年度の文化勲章を材料科学の飯島澄男(70)、古典落語の桂米朝(83)、歌舞伎の坂田藤十郎(77)、社会経済史の速水融(80)、ウイルス学の日沼頼夫(84)の5氏に贈ることを決めた。(中略)文化勲章の飯島氏は、ナノテクノロジーの素材として注目されるカーボンナノチューブを発見した。古典落語の分野で初の受章となる桂氏は、知性と洒脱さを併せ持つ芸風で上方落語の発展に貢献した。
 坂田氏は、歌舞伎俳優として優れた演技力を発揮。速水氏は、江戸時代の戸籍に当たる宗門改帳を基に人口動態を明らかにし、近世の新しい社会像を浮かび上がらせた。日沼氏は、成人T細胞白血病の病因ウイルスを発見、感染経路も解明した(後略)”

 この記事を読んで、おめでたいはおめでたいんやけれど、それはそれとして、なんやしらん違和感ありません?
 私が引っかかったのは「桂氏」「坂田氏」というところなんですね。これは「亭号」「家号」というやつで、苗字やないんですね。「……氏」というのはおそらくは英語の「Mr.」を日本語に翻訳するときに、適語がないんで武士の間で使用されていた相手の姓につける敬称を借りてきたんやないかと思うんですね。古くは律令制の氏姓制度までたどることができる。
 で、上方落語に「桂氏」が何人いると思いますか。落語家には下の名前に「師匠」とつけるのがふさわしいし、歌舞伎役者の場合は下の名前に「丈」とつけるのがふさわしい。歌舞伎役者の場合は屋号(藤十郎丈の場合は「山城屋」)で呼ぶのも可か。つまりはその世界ではそういう習慣なわけです。
 米朝師や藤十郎丈の場合、「氏」をつけるなら「中川氏」や「林氏」という本名につけるのが適当やないかと思う。伝統芸能の担い手として文化勲章を受賞したんやから、敬称をつけるんやったら、その世界で使用されている敬称を使用した方がより敬意を表すことができるんやないか。なんでもかんでも機械的に「……氏」とやったらあかんのですよ。
 他の世界では例えば、大相撲の行司さんを「木村氏」「式守氏」というようなもんです。関取に「朝青龍氏」とつけるようなもんです。変でしょう。行司には木村と式守しか姓はないんやし、関取には「……関」という敬称を使うのが礼儀。
 記事を書いた人に悪気はないんやろうけれど、「桂氏」「坂田氏」と表記した時点で「古典芸能に何の関心も興味もない方なんやろうなあ」と思われても仕方ないと思うのですね。