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不思議な少年44号 [SF]

 早朝から昨夜録画した深夜アニメをたっぷり見て、昼前に外出。今日は月例の京都の医者行き。その足で父の入院している病院へ見舞いにいく。少しの話をするのも辛そうで、こっちかて辛うなる。あまり長居して疲れさせてもいかんので、シャトルバスの時間に合わせて辞去。
 阪急の特急で帰阪。帰路、最寄駅近くの理容店で整髪。入試が近いんで、もさもさな頭やと印象が悪うなるからね。夕刻、帰宅。アニメを見たりしてから読書。夕食後、妻とやはりアニメを見て(こうアニメアニメと書くと「このおっさん、頭わいてるんと違うか」と思われそう。いやまあ、確かにアホと違うかと自分でも思うけれども)、それから読書。
 マーク・トウェイン/大久保博・訳「不思議な少年44号」(角川文庫)読了。一般的には「トム・ソーヤの冒険」などで知られるトウェインやけれど、「アーサー王宮廷のヤンキー」みたいなSF的な作品も書いているのはご存知の方も多いんやないかと思う。本書はトウェインの遺稿の中から出てきた原稿で、岩波文庫では中野好夫訳の「不思議な少年」が古くから流布しているんやけれど、これがなんと編集者が勝手に遺稿の他の作品とくっつけたり編集者自身が補筆したりした「改竄版」なのです。本書は自筆原稿をそのまま刊行し直したものの完訳。トウェインの推敲が行われてへんので、ストーリー的には散漫になっていて確かに編集者が手を入れたくなるのもわからんではない。また、キリスト教批判の部分もあり、それを嫌ったということもあるらしい。物語は、1490年のオーストリアの田舎町が舞台。古城の中に作られた活版印刷所に、ある日腹をすかせてやってきた少年は、氏素性もわからず自分の名を「44号」と名乗る。印刷所で働き始めた44号に職工たちは辛くあたる。44号は同年代の少年職工アウグストに接近し、不可思議な力を見せつける。この不可思議な力は、例えば過去や未来からものを取り寄せたり、人の心を読んだり、他人から姿が見えなくなったり、職工たちの複製人間を作って働かさせたりと、SF的な力なのですね。で、44号自身もアウグストに自分が人間やないと言い切っていたりする。「アーサー王宮廷のヤンキー」同様、トウェインという作家はSF的な発想をする作家やったことが本書でもわかる。19世紀末から20世紀初めに活躍したSF作家としてトウェインの名をあげてもええんやないかと思うけれど、どうしても「トム・ソーヤの冒険」などの印象が強すぎるから、ヴェルヌやウェルズと同列には置かれてへんのやろうね。本書では44号という少年の名前や、使われている超能力もその理屈こそ説明されてへんけれど発想はSFですよ。ただ、残念ながら一応完結しているものの完成度が低いのと、直筆原稿が発見されたのが「改竄版」が広くいきわたったあとなんで、これまではSFも書く作家という認識はされてなんだのかもしれんね。そやけど人間社会へのクールな批評がテーマとなっている本書は、古典SFのひとつに加えてもええと思う。ストーリーや構成が散漫なのを差し引いても、発想のユニークさや、異界から来た44号とアウグストの価値観の違いなど、見るべきものは多い。もう少し長生きして完成版を敢行してくれていればとおもうと残念。岩波文庫の「改竄版」と読みくらべるのも一興かと思うけれど、それよりもあらためてSF的な発想をする作家としてトウェインの他の作品を読んでみたいと思わせる一冊であります。

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