SSブログ

虎の血 [読書全般]

 今日も出勤日。授業3コマのほかは事務作業を黙々と。体調は変わらず。とにかく今日一日乗り切ったら明日から休みと、それを励みにできることを一つずつ片付けていく。
 昼、一服つけに行ったら小雨にあう。雨粒が冷たい。こういうのがボディーブローみたいにじわじわと効いてくるんですよね。ああしんど。定時に退出。
 帰宅後、寝床でどぶさっていたら少しばかりうとうとしてしもうた。それくらい疲労がたまっていたんやな。夕食後、しばらく読書。明日はゆっくり休みますぞ。
 村瀬秀信「虎の血 阪神タイガース、謎の老人監督」(集英社)読了。プロ野球が戦後2リーグに分裂し、タイガースからは多くの主力が引き抜かれ、チーム再建に初代主将の松木監督が招聘されたが、審判の判定を巡るトラブルがきっかけでフロントともめて退陣してしまう。野田誠三オーナーは大正時代に早稲田大学や満州鉄道チームのエースとして活躍し、以後30年間一線を退きその存在を忘れられていた岸一郎を監督の座に据える。男性の平均寿命が63歳という時代に、岸はもう60歳。しかもプロ野球の世界に入るのは初めて。岸の采配にタイガースの猛者たちは「おいぼれ」とついていかず、わずか3ヶ月で監督の座から降ろされてしまう。特にミスタータイガース藤村富美男が全く監督に従わず、野田オーナーもついに失敗を認めざるを得なかった。著者はタイガースの長い歴史の中で忘れ去られがちなこの老人監督についてとことん調べる。なぜ岸は監督に抜擢されたのか。タイガースを去った岸はその後どんな生活を送り、いつ亡くなったのか。当時を知るOBもほとんど鬼籍に入り、吉田義男、小山正明ら数少ない生き証人のもとを訪ねたり、タイガースの歴史にくわしいスポーツニッポンの内田雅也に取材し、タイガース監督時代の岸の置かれた状況などを明らかにしていく。さらに岸の故郷の敦賀に行き、その血族を訪ね歩き、岸一郎という人物の実像を探っていく。さらに、大正時代の岸の華々しい球歴を発掘していく。著者は、鉄道つながりの人脈があったのではないか、あるいは早稲田つながりで藤本定義が推薦したのではないかと推測していくが、残念ながら確たる証拠は見つからず、なぜ岸が監督に抜擢されたかというところまでは解明できなかった。しかし、監督である岸が選手の反抗でやめざるを得なくなったことを起点に、タイガースは監督より選手が強いという悪しき伝統を作ってしまったということを明らかにし、その後の藤村排斥事件や歴代のスター監督が退陣する時にはたいていぼろ屑のように捨てられてしまうという歴史を掘り下げていく。それでも岸はタイガースの監督時代の写真をことのほか大切にしていたことや、敦賀にタイガースが遠征に来た時にこっそりと試合を見に行っていたり、さらには藤本監督がタイガースを優勝させた試合の半券を見つけるなどして、岸が決してタイガースを恨むのではなく、短い間ではあったがタイガースの監督であったことを誇りに思っていたらしいことを突き止めていく。タイガース史における最大のミステリーの真相の片鱗が明らかになり、岸一郎という野球人の事績を再発見していく貴重なノンフィクション。プロ野球史上の定説を覆すところまではいかなくとも、30年のブランクをおいて球界に突如復帰したという驚くべき事件の姿を浮き彫りにする好著でありました。

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ: