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逡巡の二十秒と悔恨の二十年 [読書全般]

 今日から3月。思えば1年前の今ごろは今度卒業する3年生の担任をすることになっていて、学級通信を週1回発行しようとか、おそらく現代社会の授業を担当することになるやろうから、以前使うていた教材を確認してみたりしていたものです。あれから1年、もし当初決まっていた担任になっていたら、なんて考えると複雑な気持ちになる。
 とにかく今日は成績を確定させてデータ入力をしてしまうことに集中。コロナ禍で発表会に出られなんだインターンシップの生徒の補習もして、これでまずひと仕事終了。今後は来年度に向けて準備をしていかんならん。もしかしたら去年みたいに二転三転するかもしれんと思うと、あまり先走って準備をする気にもならんのやけれど。
 定時に退散。昼前から降り出した雨の中、なんとか帰宅。寝床にどぶさりながら読書をしたりして過ごす。夕食後も読書。
 小林泰三「逡巡の二十秒と悔恨の二十年」(角川ホラー文庫)読了。小林さんの単行本未収録作やアンソロジー用に書かれた作品を一冊にまとめた短編集。おそらく小林さんは同系統の作品がたまってからそれぞれ別々の短編集にまとめるつもりやったんやと思う。ホラーあり、クトゥルーあり、SFあり、ミステリありと雑多な短編集となった。ただ、そのために小林泰三という作家のいろいろな側面を1冊の本で見ることができるようになっている。デビュー作「玩具修理者」のスピンオフ的な「玩具」に始まり、現実とあり得た別の世界が交錯する表題作、侵略者によって人々が自分の記憶を持った別物に変えられてしまう「侵略の時」、日本神話とクトゥルー神話の融合を試みた「イチゴンさん」、理想の社会とは何かを追求する「草食の楽園」、SF落語の「メリイさん」、悠久の時間を生きるものを描く「流れの果て」、カニバリズムをテーマにした「食用人」、毒殺をテーマにした本格ミステリ「吹雪の朝」、家畜が伝染病で死に絶えた世界を描くホラーSF「サロゲート・マザー」を収録。いずれも理屈っぽかったり邪悪やったりぐちゅぐちゅしてたり残虐シーンを微に入り細を穿つように描写したりと、小林作品の特徴が余すところなく示されている。こういう形でバラティに飛んだ短編集というのは小林さんの場合あまりなかったと思うので、皮肉なことに、亡くなったことで編まれた本書は、彼の全貌をつかむのには格好の一冊となった。ただ、亡くなる直前に出された作品はこの短編集とはまた違う新境地の作品が次々と出ていただけに、読後はますます彼の死を惜しむ気持ちが強くなってしもうた。もう彼の新作を読むことがでけんのやなあ。

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