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浅倉久志の死 [追悼]

 翻訳家、浅倉久志さんの訃報に接する。享年79。死因は心不全。
 その膨大な訳業と、確かな作品選択。SF初心者の方に「どんなものを読めばいいですか」とたずねられたら、「浅倉さんか伊藤典夫さんの訳したものから読んでいけばいいよ」と答えておけば間違いない。SFファンにとって、最も信頼できる翻訳家の一人やったことは私がこんなところで書くまでもないやろう。
 どんな優れた作品でも、翻訳が悪ければ駄作のように思えてしまうと私は思う。日本語としてこなれた文章で訳せる翻訳家は、そうそう多くはない。浅倉さんの訳した数多くの作品が傑作として評価されているのは、とりもなおさず浅倉さんの文章力が素晴らしかったということを示しているんやないかと思う。
 同じ作品が複数の版元から別々の翻訳で出版されている場合、私はかつては値段の安い方をちゅうちょなく選んでいた。なんかようわからんなあ、そやのにベスト投票では必ず見る作品なんやなあ。なんでかなあと思うたら、多少値が高くても浅倉さんの訳したもので読み直すべきである。こんなに面白かったんかと必ず気づかされる。
 実例を出すと失礼にあたるけれどね、「宇宙船ビーグル号」なんかがそうですわ。もとは同じ作品やのに、なんでこんなに面白さが違うのかと驚くやろう。
 これほどの文章力のある翻訳家はそうそう出てこないと思う。SF界はその初期からこういう翻訳家がいてくれて、SFの魅力を多くの読者に伝えてくれたということに感謝せんならんやろうと思う。遥か彼方の岬に立つ灯台、それが浅倉さんやったかもしれん。派手で目立つ存在やなく、それでも確かに道しるべとなる光を常に発してきた。その光が、ついに消えてしもうた。幸いなことに、新しい灯台が浅倉さんの照らしてきた海を別な角度から照らしてくれている。
 謹んで哀悼の意を表します。

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