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茂山千作の死 [追悼]

 昨夜は就寝時間が遅くなり、今日はいささか寝不足気味。それでもなんとか踏ん張って、疲れた体を引きずるように帰宅。
 夕刊で狂言師、茂山千作さんの訃報に接する。享年93。死因は肺癌。
 お歳もお歳やったから、いつ亡くなられてもおかしくはなかったんやろうけれど、なんとなくいつまであのまま生きていかはるような気がしていた。最後に見た演目は「福の神」。その日の日記にも書いたけれど、まさに福の神そのままという感じやった。もう人間の域を超えていると思わせるように感じさせられた。人間国宝の価値というものを目の当たりにした。
 子どものころから、NHkなどで大蔵流の狂言を見たら、あのなんともいえん笑顔に必ずぶつかり、子どもではあったけれど面白くて仕方なかった。他にも狂言は放送していたのに、千作さん(当時は千五郎さんかな)の印象だけが記憶に残っている。「蝸牛」の山伏とか、あのあたり。今でこそ「日本語であそぼ」の野村萬斎さんのおかげで子どもでもおなじみになった「でーんでーんむしむし」というフレーズでありますが、40年くらい前に私はもう千作さんにその言いまわしの面白さとか、教えてもろうていたんやなあ。主人と太郎冠者が「でーんでんむしむし」とやるのを見ながら豪快に「うはははは」と笑う千作さんの山伏の表情は、今でもすぐに脳内のスクリーンに鮮やかにうかんでくる。
 いわゆる茂山一門の「お豆腐狂言」の創始者というてもええんやろうなあ。狂言という室町時代から続いている芸能を、現代の我々にも「喜劇」として提供してくれはった恩人というてもええと思う。存在そのものから発せられる「笑いのオーラ」みたいなものは、ちょっと他の方には出せんものがあったと思う。いわば、舞台に出てきて笑うただけで、こっちまで腹からおかしくなってくるような、そんな感じか。
 能楽堂のロビーでくつろぎながら煙草を吸い、舞台と同じように笑うてはった笑顔が、忘れられない。舞台でも、ロビーでも、「茂山千作」という存在は不変やったんやなかったかと思う。
 たくさんの笑いを、ありがとうございました。
 謹んで哀悼の意を表します。

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