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中村鋭一の死 [追悼]

 元アナウンサー、国会議員の中村鋭一さんの訃報 に接する。享年87。死因は肺炎。
 父に教えられて、朝のラジオ「おはようパーソナリティー中村鋭一です」を聞いたのは中学生になった頃やったか。タイガースが勝った翌日、「それではいきましょう! 六甲颪!」と絶叫。たんたかたんたかたたたたたーっと前奏が鳴る。レコードに合わせて「ろーっこうおろーしに、さあっそおうとー」と朗々と歌いはじめる。愛称「鋭ちゃん」。美声やったし、歌も上手かった。後継者である道上洋三さんには悪いけれど、どら声の道上さんの「六甲颪」とは違うのです。
 レコードも買いました。「吼えろ! タイガース」というタイガースの過去の試合の実況や選手インタビューなどを収録したLPで、ナレーションはもちろん鋭ちゃん。1974年にBクラスに落ちた年に発売されたものなんやけれど、たぶん球団創設40周年に向けて製作されたもの。1962年の優勝決定の実況やとか、村山実の引退試合やとか、戦後すぐのダイナマイト打線の場内アナウンスやとか、貴重な音源がおしみなく収録されている。CDに復刻してくれへんものかなあ。
 実は、「阪神タイガースの歌」は、鋭ちゃんがラジオで歌うまでは忘れ去られた球団歌やったそうで、鋭ちゃんが歌うことにより、この名曲はタイガースファンの「国家」になったのです。そこらあたりは井上章一さんの「タイガースの正体」にくわしい。
 父に頼まれて本屋で「鋭ちゃんのバラード」(講談社)を買いにいった。局アナやけれど、関西の朝のラジオパーソナリティの草分けとして、タレント並みの知名度を誇った。タイガースが好きで、鮒ずしが好きで、スタッフにあだ名をつけ、リスナーの声を大切にした鋭ちゃん。なんとわずか6年で降板し、政界に転身したのですね。
 後継者の道上さんはテーマ曲の「クラリネットポルカ」も「六甲颪」も引き継いだ。
 学校でちょっとツッバった連中が「えーちゃん」を連発しているので、みんな中村鋭一のラジオを聞いているのかと思うたら、どうも様子が違う。実は彼らの「えーちゃん」は矢沢永吉という歌手のことやったのです。完全に文化圏が違うたのですなあ。
 国会議員を何期かつとめ、当選と落選を繰り返し、タレントとなってからは、私の耳の届く範囲で声を聞くことはなくなったけれど、タイガースが優勝したりすると、スポーツ紙にコメントが載ったりして、御健勝であることは確認できた。
 鋭ちゃんの「六甲颪」を聞いたことで、私の虎キチ(今は「虎党」というそうな)ぶりはさらにエスカレートしたように思う。幸い鋭ちゃんの「阪神タイガースの歌」(六甲颪)はCDに復刻され、「タイガース音頭」もキダ・タローさんのCDに収録されることで復活した。鋭ちゃんの「六甲颪」には間奏のところで御自身の架空実況が入っている。田淵選手が逆転満塁ホームランを打ってタイガースが優勝するという設定のもの。長年優勝から見放されてきたタイガースファンはそんな架空実況でおのれを慰めていたのですねえ。
 今も「六甲颪」がタイガースファンに愛されているのは、鋭ちゃんのおかげ。それだけでもはかりしれん功績があるんやないか。
 謹んで哀悼の意を表します。

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